糖質面白話

続・サツマイモ澱粉のお話

 従来のサツマイモ澱粉より10〜15℃低い温度で糊化が始まる低温糊化澱粉が見出されました。この澱粉の発見のきっかけは、育種研究者の「この新しい系統の蒸し芋は、とても甘いんだよね。なぜだろう?」との問いに、澱粉研究者が「では、澱粉の性質を調べてみましょう。」と答えたことでした。

 加熱していないサツマイモは甘くありませんが、焼き芋など、加熱したサツマイモは甘くなります。これには、サツマイモに含まれる澱粉と澱粉分解酵素であるβ-アミラーゼが関係しています。β-アミラーゼは澱粉粒子を分解できませんが、加熱により澱粉粒子が糊化して分子が緩むと分解できるようになり、甘い麦芽糖を生成します。しかし、タンパク質であるβ-アミラーゼは熱に弱いので徐々に働きを失います。すなわち、サツマイモの甘さは、加熱による澱粉の糊化の始まりから、β-アミラーゼの働きが無くなるまでの時間(糖化時間)が重要になります。

 先の育種研究者が見出した甘いサツマイモの澱粉を調べると糊化温度が低いことが分かりました。澱粉の糊化温度が低いことは、β-アミラーゼの糖化時間が長くなるので多くの麦芽糖を生成します。流行の「べにはるか」は、中程度の低温糊化澱粉を持ち、かつβ-アミラーゼの働きが強いので、甘くてしっとりとした“スイーツ焼き芋”になるようです。

図 焼き芋の断面

参考文献

1) Physicochemical Properties of Root Starches from New Types of Sweetpotato, JAG, 46, 391―397 (1999)

2) 低温糊化性澱粉を有するサツマイモ品種「こなみずき」の育成,特性解明,澱粉製造および食品利用技術の開発,応用糖質科学,第8巻,第1号,56―62 (2018)

3) サツマイモ新品種「べにはるか」の育成,農研機構研究報告,九州沖縄農業研究センター報告,第66号,87-119 (2017)

鹿児島大学 北原 兼文

澱粉