生体物質が有する糖鎖を構成する糖の一残基の違いによってその生理機能が大きく変わる典型的な例は、ヒト赤血球の表面膜の糖鎖に存在するABO式血液型の抗原決定因子が良く知られています。また、コアフコース(図参照)が欠損している糖鎖を有する免疫グロブリンG(IgG)抗体は高い細胞傷害活性を示すことが見出され、ガン細胞に対する抗体医薬として実用化されています。すなわち、コアフコースを持たないIgG抗体はコアフコースを有するIgG抗体に比べて免疫細胞の受容体に対する親和性が高く、細胞が活性化されやすいと言う事実によります。
最近の新型コロナウイルスによる感染症において、ウイルス膜上のスパイクタンパク質に対する患者のIgG抗体の糖鎖構造は重症化患者の方がコアフコースを欠損している比率が高いことが報告されています。重症化する患者がコロナウイルスに感染した際に産生されるIgG抗体の糖鎖に、コアフコースが欠損したものが多く存在することが見出されています。そのために免疫細胞への結合活性が高くなる結果、誘導されたサイトカインが細胞から過剰に放出されることによって過剰な免疫反応が起こるサイトカインストームによるものであることが明らかになって来ました。一残基の糖の有無が、疾病の重症化リスクに大きく関わっているのです。
参考文献
Larsen, W. et al., Science 371, eabc8378 (2021).
Hoepel, M.D. et al., Sci. Transl. Med. 13, eabf8654 (2021).
和歌山大学 産学連携イノベーションセンター
山本 憲二