糖質面白話

植物を守る矛と盾

 植物は動くことができないために、生存を脅かすような外的要因に対しても移動という手段をとって対応することができません。水不足、高温、塩ストレスなど、植物にストレスを与える環境要因はいくつもありますが、外敵(植物病原菌や害虫)による害もその一つです。しかし植物はその様な外敵に対して、一方的にやられてしまうばかりではなく、生体防御タンパク質(Pathogenesis-Related proteins, PR proteins)と呼ばれる一群のタンパク質を作り出すことによって抵抗しています。今回はその中のキチナーゼとキシラナーゼ阻害タンパク質について紹介します。

 植物病原菌の細胞壁の主要な成分の一つはキチンという多糖です。植物にはキチンが存在しないものの、この多糖を分解する酵素キチナーゼをもっており、感染しようとやってきた病原菌の細胞壁を溶かす(溶菌する)ことによって抵抗しています。一方で病原菌は植物の細胞壁成分であるアラビノキシランを分解するキシラナーゼを分泌して、植物の細胞壁を壊して感染しようと試みています。植物はこのキシラナーゼに対しては、XIP(Xylanase Inhibiting Protein)と呼ばれるキシラナーゼ阻害タンパク質を分泌し、酵素の活性を抑えることによって被害を免れています。実はこのキシラナーゼとXIPはどちらも(β/α)8 -バレル構造と呼ばれる立体構造をとっており、非常によく似た形をしています(図)。しかし、キチナーゼは酵素として、XIPは阻害タンパク質として機能し、どちらにも他方の機能はありません。

 植物が生存をかけた病原菌との戦いの場で、形は非常によく似ているものの全く異なる役割、矛と盾、を果たすタンパク質を用いて身を守っている点は、タンパク質の分子進化を考える上でも非常に興味深いです。

図 キチナーゼ(青)(PDB ID 2HVM)とXIP(シアン)(PDB ID 9K1M)の立体構造の重ね合わせ図

 

参考文献
Ohnuma T et al. Molecular arrangements that accompany binding of rice xylanase inhibitor protein OsXIP and the Rhizopus oryzae GH11 xylanase RXyn2. J. Biol. Chem. (2025) 301(8) 110385.

 

近畿大学農学部生物機能科学科
大沼 貴之

酵素