企業版糖質面白話

精糖会社が作るオリゴ糖 ラクトスクロース

ラクトスクロースの開発が始まったのは1987年からであり、砂糖の消費量が漸減するなかで砂糖のマイナスイメージの払拭と、砂糖の用途拡大が目的であった。当時、すでに砂糖を原料にフラクトオリゴ糖やパラチノース、砂糖と澱粉からグリコシルスクロースが上市されており、砂糖と他の糖質との組み合わせを検討した。砂糖に作用してヘテロオリゴ糖を生成する酵素としてレバンスクラーゼがあったが、本酵素の誘導には砂糖が必須であり、培養液にレバンが生成するため扱いにくかった。そこで新たな菌をスクリーニングし、Arthrobacter sp. K-1株の産生するフラクトフラノシダーゼを見出すことによって工業的な生産方法を確立した。砂糖工場から発見した本菌は、細菌学的特性からMicrobacterium saccharophilum K-1と命名された1)。
酵素に関しても立体構造が明らかにされ、GH68に属し、Gluconacetobacter diazotrophicus 由来レバンスクラーゼと高い相同性を示すことが明らかにされた2)。本酵素は幅広い受容体特異性を示し、キシロース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、ステビア等の配糖体にもフラクトースを転移した。キシロースを受容体とした場合に生成されるキシロシルフラクトシドは抗う蝕性(虫歯にならない)を有することから、当初は本オリゴ糖の生産が検討されたが、最終的に甘味質・美味しさと機能性からラクトスクロース(図1)が実用化されることとなった。
ラクトスクロースは砂糖と乳糖を原料として上記酵素のフラクトース転移活性によって砂糖のフラクトースを乳糖に結合させることによって合成され、切れ残りのグルコースはインベルターゼ欠損酵母で資化することによって生成率を高め、反応後一連の工程を経て乳糖果糖オリゴ糖製品ができている。

ラクトスクロースは、消化酵素では分解されず、大腸まで達する難消化性のオリゴ糖であり、善玉菌の餌になり腸内環境を改善する。さらに便性改善効果、カルシウムの吸収促進作用、乳糖不耐症の症状の軽減、アレルギー症状の緩和作用、口腔環境改善・ストレス低減効果がヒト試験で確認されている。また、動物試験では脂肪蓄積抑制作用、腸管免疫増強作用、インフルエンザウイルス感染予防効果も報告されている。腸内環境改善効果については、排便機能が衰えた高齢者および妊婦でも有効性と安全性が確認されている。医療現場では慢性炎症性腸疾患や精神疾患などの患者でも摂取され、腸内環境改善や便通改善に有用性が示されている。疾患を直接治癒するには至らないが、QOLを高める補完医療としても期待される。           

 

参考文献

  • 藤田孝輝 「ラクトスクロース(乳糖果糖オリゴ糖)の生産技術と機能性」食と医療 (2022)23(特集:機能性糖質と健康): 51-58.
  • 藤田孝輝 「ラクトスクロース(乳糖果糖オリゴ糖)の機能と製品開発」JATAFFジャーナル(2022)10(特集:腸内環境に影響を与える食品素材−基礎から開発まで−): 26-31.

引用文献

  • Ohta Y, et al., Microbacterium saccharophilum nov., isolated from a sucrose-refining factory. Int J Syst Evol Microbiol. (2013) 63: 2765-2769. doi: 10.1099/ijs.0.047258-0
  • Tonozuka T, et al., Crystal structure of a lactosucrose-producing enzyme, Arthrobacter K-1 β-fructofuranosidase. Enzyme Microb Technol. (2012) 51:359-365. doi: 10.1016/j.enzmictec.2012.08.004

 

塩水港精糖株式会社 糖質研究所 藤田孝輝