企業版糖質面白話

苦いだけじゃない? β-グルコオリゴ糖シラップ

今を遡ること36年前、とある大学の研究室で0.1 mL程度の容量でβ-グルコシダーゼの縮合反応の実験が行われました。この実験で従来知られていたよりも効率的にゲンチオビオースが生成されることが確認され、β-グルコオリゴ糖の開発へとつながりました。現在では数十tレベルでの反応が行われ、工業的にβ-グルコオリゴ糖含有シラップが生産されています。

β-グルコオリゴ糖含有シラップに含まれるゲンチオビオースは苦味を呈することが知られていますが、酸糖化によりグルコースを製造した際には、グルコース濃度の上昇とともにゲンチオビオースも生成されて苦味を感じるようになるため、極力ゲンチオビオースを生成させない製造条件が取られていました。苦いが故にちょっと嫌われた存在だったと言えると思います。しかし、その苦味を前面に出してしまえば、それはそれで特徴になると考えられました。

ゲンチオビオースは、ヒトの苦味受容体であるhTAS2R16を刺激することが明らかとなっており、他の代表的な2糖類では刺激されないことからも、苦味はゲンチオビオースの大きな特徴であると考えられます。

一般的に食品は単一な味で構成されているものは少なく、苦味を呈する素材も苦味だけではなく、コク味の付与や隠し味的な使い方ができ、食品全体の味質に影響を与えることができます。

味覚受容体の刺激等が解明されてきていますが、ヒトが感じる“味”は更に複雑なもので、苦味だけでなく他の味質への影響など、今後も別の一面を見せてくれるのではないかと期待しています。

 

参考文献

海野剛裕ら 応用糖質科学 41, 317-324 (1994)

Askurai T, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 402, 595-601 (2010)

藤本佳則 機能性食品素材有効利用技術シリーズ オリゴ糖Ⅰ, 128-143 (2015)

 

日本食品化工株式会社 執行役員 海野 剛裕