企業版糖質面白話

食品の品質を向上させる夢の糖質“トレハロース”

トレハロース(α,α-トレハロース)は、グルコースの還元末端同士が結合に関与しているため、α-グルコースから構成される二糖類の中で唯一還元力をもたない。古くから細菌、酵母、カビ、昆虫、植物などに広く分布が確認されており、生体の保護剤やエネルギー源などとして利用されてきた。澱粉からの直接生産は不可能と考えられていたが、’90年代初頭に発見された微生物酵素を利用することによって、トレハロースの安価大量生産が可能になった。甘味度が砂糖の38%と低く、糖質といえば甘味料が主な用途と位置付けられることが一般的であったことから、当初は本素材に対し大きな市場を意識することはなかった。しかしながら、いざ上市してみると、各方面で次々と新たな用途が見いだされ、今では信じられないほど世界への広がりをみせている。

他のグルコ二糖に比べ、トレハロースのコンフォメーションは剛直とされており、この剛直性が安定な水和殻を生み出す要因といわれている。食品加工の分野において、トレハロースの水和特性は、様々に品質向上へ寄与していると考えられている。ご飯やお餅を柔らかく保つ澱粉老化抑制をはじめ、肉・魚・卵料理のパサつきや硬化を低減し、柔らかくジューシーに仕上げるタンパク質変性抑制なども、その例として挙げられる。一方で、水和だけでは説明できないマスキングなど、その他の機能については、水分子以外との分子間相互作用の関与が想定される。今後の機能性研究の進展に期待しつつ、この素材のさらなる広がりを末永く見守っていきたい。

 

参考文献

・Maruta K, et al., Formation of trehalose from maltooligosaccharides by a novel enzymatic system. Biosci Biotech Biochem. (1995) 59: 1829-1834. doi: 10.1271/bbb.59.1829

・Ohtake S, Wang YJ, Trehalose: current use and future applications. J Pharm Sci. (2011) 100: 2020-2053. doi: 10.1002/jps.22458

・Furuki T, Sakurai M, Physicochemical Aspects of the Biological Functions of Trehalose and Group 3 LEA Proteins as Desiccation Protectants. Adv Exp Med Biol. (2018) 1081: 271-286. doi: 10.1007/978-981-13-1244-1_15.

 

株式会社林原 フードシステムソリューションズ部門 事業戦略部 丸田和彦