澱粉のゲル物性は、植物種の選定や物理的・化学的加工との組み合わせにより制御されてきました。しかし、従来技術では、実現できる物性に限界がありました。当社はこの課題に対し、澱粉ゲルの構造に着目しました。澱粉ゲルは、澱粉粒から溶出した成分 (matrix) が網目構造を形成し、その中に膨潤した澱粉粒子 (filler) が捕捉された「filler in matrix」構造 (図1) を持ちます。この知見を基盤に、新たな澱粉物性改良技術『E-スターチ技術』を開発しました。
本技術の特徴は、fillerを化学修飾で制御し、matrixを酵素処理によって制御する点にあります。従来、澱粉の酵素処理は加熱糊化後に行い、低分子化させることが一般的でした。これに対し当社は、糊化させずに澱粉粒を維持したまま酵素処理を行うことで、澱粉ゲルに高い弾性を付与できることを明らかにしました。
この効果は酵素処理によって matrix 中のアミロース比率が高まり、二重らせん構造を伴う架橋点が増加することで、強固な3次元ネットワークを形成させるためと考えられます。さらにリン酸架橋化によるfiller の制御と併用することで、従来の化学修飾では得られなかった特異なゲル物性を実現しました。
この技術により生まれた澱粉『E-スターチ』は次の➀~➂の特徴が明らかとなっています。
①特異な弾力を備えたゲルの形成
②澱粉特有のべたつきの低減
③くちどけ改善と口腔内での香りの広がり向上
『E-スターチ』は新たな澱粉利用の価値を生み出し、さまざまな食品および工業用途への利用が広がる素材です。

参考文献
・J.O. Camali and Z. Zhou, J. Rheol., 40, 221-234 (1996)
・H. Goesaert,et al., Trends Food Sci. Technol., 16, 12-30 (2005)
・T. Ichihara, et al., J. Appl. Glycosci., 61, 15-20 (2014)
・市原敬司ら, 食科工誌, 62, 207-211 (2015).
グリコ栄養食品株式会社 技術開発センター 物性機能開発グループ
川村 知世
