1,5-アンヒドロ-D-フルクトース(1,5-AF)は、澱粉を酵素(α-1,4-グルカンリアーゼ)で脱離分解することで生成する糖質です。工業的に生産されている澱粉分解物はブドウ糖、マルトース、マルトデキストリンなどに代表される加水分解産物が中心であることから、1,5-AFは澱粉からのものづくりの新たな方向性と考えられます。現在では、澱粉とオゴノリという食用海藻由来のα-1,4-グルカンリアーゼを用い、1,5-AFを40%程度含有する水あめが生産されています。
1,5-AFは高い抗酸化能を有し、健康機能として、食後血糖値の上昇抑制効果や高めの血清尿酸値を正常域に近づける効果も報告されていることから、健康食品原料としても利用されています。また、食品の品質劣化の要因である酸化を防止し、果物の変色抑制や中華麺の色調保持のために利用されています。
また1,5-AFは、特異的に作用する還元酵素により、1,5-アンヒドロ-Ⅾ-グルシトール(1,5-AG; 別名 1-デオキシグルコース)や1,5-アンヒドロ-Ⅾ-マンニトール(1,5-AM; 別名 1-デオキシマンノース)へと還元されます。ヒトを含む哺乳類では、グリコーゲンから1,5-AFを介して1,5-AGが合成されると推定されており、また多様な食品が1,5-AGを含有することから、この代謝経路を多くの生物種が有すると推測されます。しかし、この分解経路の生理的意義はよくわかっておりません。今後、1,5-AFやその代謝産物である1,5-AG及び1,5-AMの機能性研究が進展し、これら糖質が新たな素材として開発されることを期待しています。

(参考文献)
・ 吉永一浩ら「1,5-アンヒドロ-D-フルクトースの機能研究と工業生産技術開発」 応用糖質科学(2011)1: 70-75.
・ 大越和章ら 「1,5-アンヒドロ-D-フルクトース含有食品の摂取による血糖値上昇への影響確認試験」 診療と新薬(2020)57: 135-142.
・ 吉永一浩ら 「1,5-D-アンヒドロフルクトースの経口摂取時の安全性評価と血清尿酸値への影響」 薬理と治療(2022) 50: 1437-1446.
・Yu S, et al., The Anhydrofructose Pathway of Glycogen Catabolism, IUBMB Life(2008) 60: 798-809.
・ 亀谷俊一ら「リアーゼによるグリコーゲン分解と1,5-アンヒドログルシトール」 生化学(1997) 69: 1361-1372.
株式会社サナス 開発研究部 開発研究課 川上 拓也