澱粉ってシンプルで複雑?

 澱粉は米、小麦、トウモロコシの世界の三大穀物をはじめ、大麦、ジャガイモ、キャッサバ、サツマイモ、小豆、インゲンマメ、エンドウ、サゴヤシなど、多くの植物の種子、根、茎、子葉、幹など、様々な植物組織に大量に含まれています。植物は蓄えた澱粉を発芽時など、必要に応じてエネルギーとして利用し、動物も食糧源として利用しています。 
 澱粉はD-グルコースという1種類の構成糖で、結合様式はα-1,4結合とα-1,6結合の2種類だけで構成されています。それだけ聞くと、澱粉って何てシンプルな構造なの?と思われるかもしれませんが、澱粉粒の構造は、1940年のマイヤーモデルに始まり、二國モデル(1969)、貝沼&フレンチモデル(1972)、ロビンモデル(1974)、ラインバックモデル(1984)、檜作モデル(1986)、ギャランモデル(1997)、ベルトフトモデル(2004)など、様々なモデルが提案されており、まだどれが正しいのかよく分かっていません。また、アミロースが澱粉粒内にどのように存在しているのかもよく分かっていませんので、アミロペクチンのみの構造を示しているモデルのほうが多いくらいです。
 では、どうしてこのように澱粉の構造解析は難しいのでしょうか? その原因は、澱粉の構成単位と結合様式のシンプルさが大きいと思います。つまり、澱粉の構造研究には取っ掛かりが少なく、どこを切っても金太郎飴状態です。それに対して、たんぱく質は20種類のL-アミノ酸がペプチド結合、ジスルフィド結合、水素結合、疎水結合など多くの結合様式でつながって存在していますし、中性脂質は多種類の脂肪酸がグリセロールに結合しており、キャラクタリゼーション(特徴づけ)がしやすいということがあります。
 澱粉の分岐点のα-1,6結合のみを特異的に分解するイソアミラーゼなどの枝切り酵素が1970年代くらいから使えるようになり、枝切り後の単位鎖の分析が容易になって、ある程度の構造解析がしやすくなりましたが、澱粉構造の最上位の澱粉粒と最下位のα-グルカン分子(「糊化」するのは粒であり,「老化」するのは 糊化した α-グルカン分子)1)の間を埋める研究が今後も引き続き望まれます。

参考文献
1) 花城 勲, 応用糖質科学, 8, 263-266(2018)

福山大学生命工学部
井ノ内 直良

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